破産手続きと著者の印税債権:なぜ優先順位が低いのか
秀和システム社の倒産を受け、著者の立場から調べていたのですが、
倒産後は、著者に支払われるはずだった未払著作料が、
法的手続き上、支払われないという事実には驚きました。
破産手続きにおいて、著者の印税債権は一般的に優先順位が低く、
「一般破産債権」に分類されることが多いとのことです。
これは、従業員の賃金債権よりも劣後するのが一般的であり、
優先されるのは、従業員への支払いや税金などです。
「従業員の賃金は、その労働者の日々の生活を支えるためのものであり、
これを失うと生活が立ち行かなくなる可能性が高いため、
国として従業員の保護を厚くしている」とのことですが、
著者も同様に生活の糧を得ている立場であり、
著作料が「0円」というのは、さすがに酷いと感じました。
契約形態の違いだけで、ここまで扱いに差が出るのかと、
現在、未払いが発生している著者の方々を思うと、心が痛みます。
破産手続きにおける債権の優先順位や、著者の不公平感についてなど
ブログにまとめました。
破産手続きにおける債権の優先順位
日本の破産法では、債権には以下のようなおおまかな優先順位があります。
財団債権(最優先):
破産手続きの費用(破産管財人の報酬など)、破産手続き開始後に発生した費用(例:破産管財人が事業を継続した場合の仕入れ代金など)が該当します。これらは破産財団から随時支払われます。
優先的破産債権 :
– 労働債権:
従業員の未払い賃金や退職金など。
特に破産手続き開始前の一定期間(例:6ヶ月以内)の賃金は、さらに優先的に扱われます。これは、従業員の生活を守るという社会政策的な配慮によるものです。
– 税金や社会保険料:これらも優先的に扱われます。
・一般破産債権:
著者の印税債権は、通常この「一般破産債権」に分類されます。他にも、取引先への未払い代金や銀行からの借入金など、多くの債権がここに含まれます。会社の財産が少ない場合、この一般債権への配当は非常に低くなる(数%、あるいはゼロ)ことが多いです。
・劣後的破産債権:
利息や損害賠償など、さらに順位が低い債権。
・約定劣後破産債権:
当事者間で合意し、順位を意図的に下げた債権。
なぜ著者の印税債権の優先順位は低いのか?
この優先順位は以下の考えに基づいています。
債権の性質
印税は契約に基づく報酬であり、一般の売掛金やサービス料と同じ扱いになります。特別な優遇措置はありません。
社会政策的要請
従業員の賃金は、生活の基盤であり、支払いが止まると生活に重大な影響を及ぼします。そのため、国は従業員を特に保護する仕組みを設けています。
担保の有無
金融機関などは多くの場合、会社の資産(不動産など)に担保を設定しており、担保権者は他の債権者よりも優先して弁済を受けられます。
著者の不公平感について
著者が自身の創作によって生み出した作品から得るべき報酬が、
他の債権に比べて劣後するという現実は、道義的にも経済的にも納得しづらいものです。
しかし、現行法の下では、このような扱いとなっています。
・著作権の保護
著者が持つ「著作権」は倒産しても失われません。作品自体の権利は著者にあり、他の出版社で再出版することは可能です。 ただし「印税債権」は、過去の販売に対する金銭債権であり、これは出版社に対する債権として破産手続きに組み込まれます。
リスクの側面
出版契約は、本が売れることで報酬が発生するという性質の、リスクを伴う契約です。出版社が倒産すれば、印税の回収リスクは著者が負うことになります。
対策は?
こうしたリスクを完全に回避するのは困難ですが、以下の対策が考えられます。
・印税支払いの早期化・頻度の見直し
契約時に、締め日や支払日の間隔を短くしたり、支払い頻度を上げるよう交渉する。
・担保の設定
現実的には難しいですが、高額な印税が見込まれる場合には、弁護士と相談のうえ、債権保全のための担保設定を検討する。
・出版社の信用調査
契約前に、可能な範囲で出版社の経営状況を把握しておく。
出版権契約の解除条項の確認
出版社の経営破綻時に、著者が速やかに出版権を解除し、他社と再契約できる条項が含まれているか確認する。
本を書いた著者が報われないという状況は、
文化の発展にとっても望ましいことではありません。
しかし、現在の倒産法制度下では、こうした優先順位が適用されるのが実情です。