1941年映画『川中島合戦』に見る映画人の技術力と贅沢さ|何百頭もの馬が織りなす構図の美しさ、そして明治生まれの名優たちの凄い身体能力

1941年映画『川中島合戦』に見る映画人の技術力と贅沢さ|何百頭もの馬が織りなす構図の美しさ、そして明治生まれの名優たちの凄い身体能力

上杉謙信と武田信玄の合戦を、上杉軍の荷駄組による物資輸送の行軍を中心に描いている作品。(配役は最後に記載)荷駄組とは「軍勢の移動や合戦に際し、兵糧、弾薬、陣地設営の道具などを駄馬や人足を使って運搬する部隊や組織のこと」です。(小荷駄https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B0%8F%E8%8D%B7%E9%A7%84

衣笠貞之助監督、三浦光雄さん撮影の、引きで撮っているにもかかわらず細部まで構図が美しく、白黒、明暗の対比、そしてカメラに映る全ての動くものがかっこいいという衝撃の映画。引きで撮っているので人や馬の数、小道具類の量も凄いはずですが、これが乱れず綺麗に調和をとっており、馬に至っては何百(何千?)頭いるのかわからないくらいの数を、どうしたらそんなにカッコよく自然に動かして見せられるのか不思議でなりませんでした。地平線の彼方まで馬に乗った人がいるし、森の中を密集して隊列を乱さずに馬と人が歩く。信じられない映像です。そして自然の中にいる人も野性味があり、動物を感じる動きを見せます。

私のブログでも再三、明治生まれの役者さんの驚異的な身体能力、技術力について語っていますが、『川中島合戦』でもそれが存分に発揮されております。例えば鎧をつけて馬に乗っている月形龍之介さん。馬の扱いが上手な上に体の芯がしっかりしているので、馬に乗っている姿が異常なほどかっこいいです。さらに馬に乗りながら慣れた動作で馬を操ります。静かに馬を後進させて隠れるようなシーンがあるのですけど、馬を後進させるのって難しい技術と思いますが、それを演技しながらバックさせたので、ゾクッとするほどカッコ良いシーンでした。この映画で唯一単独で乗馬技術のシーンがあったのが月形さんのみでしたので、相当上手なんだと思います。

次に主演でもある市川猿之助(二代目)さんが、川で溺れる長谷川一夫さんを助けた時に、岸に上がってから体をぶるぶると振って水を飛ばすシーン。無意識にやっていると思いますけど、動物的、野生的でよかったです。同じく、自然の中のシーンで、荷駄組の馬から鍋が落ち、山の下へ転げ落ちたのを拾いに行く長谷川一夫さんの駆け降りる速さ。かなりの急勾配のはずですが転ばずに駆け下りる足腰の強さが素晴らしいです。そして駆け降りたところにいた、足を撃たれて困っていた山田五十鈴さんが怯えて体を震わせている姿が、本当に震えている動物の姿ではっとしました。さらに両軍の合戦はお互いの忍び同士の探り合うところがあるのですが、高い木の上から鎧姿の忍びがスッと、ポトっと落ちてくるのですけど、ここも動物のような動きで感心したものです。

最大に驚いたのは乗馬している人と馬の行進シーンです。馬も人も凄い数なのですけど、足場の悪いはずの川を一列になって歩いているシーンや、山中を大群で行進しているシーンがあまりにも一体感がありすぎて見惚れるほど美しいと感じました。本当に馬の数がすごいのですけど、みんな馬に乗れてなおかつ鎧をつけて戦いに向かうという演技もしている。演技をしているのか自然に歩かせているだけなのか私には分かりませんが、馬と人がこんなに一つになれるものかと驚いたものです。他にも馬と人が休んでいるシーンなどもあるのですけど、桃源郷のように美しい姿でした。

両軍が合戦するシーンはラストの数分程度なのですが、そこに至るまでの描写、映すところが、誰も真似できないだろうというようなシーンの連続で、見終わったあとショックを受けるほどでした。この時代では普通の出来事だったかもしれませんが、映画にかけられる予算もたくさんあっただろうから、これだけ贅沢な作りが可能だったかもしれません。しかしお金を贅沢に使っても誰もがこの形にできるはずはないので、やはり、この映画に関わった人たちの能力が凄まじかったのだと思います。また、荷駄組を中心に描くことは資料探しも時代考証も、そしてどんな演技にするかなども非常に難しかったと思います。ですが、こういう映画を作ってみせ、見るものにすごいと言わせる圧倒的とも言える手腕が、この時代の映画に関わった人たちの凄さなんだろうと思います。人の能力が現代人とは違いすぎるので、もう二度と作れないだろうし、見られないと思いますので、本当にこうした素晴らしい映画は語り継がれて欲しいと思います。

以下は余談ですけど、この映画で上杉謙信と、謙信の隣に貝賀五郎丸という前髪くんがおります。五郎丸くんの乗る馬が少しだけ暴れそうになるのを謙信が手綱を引いてあげるシーンや、五郎丸くんを追いかける足守小平太など、前髪五郎丸くんをめぐる疑惑のシーンが少しだけ入るのも目の引きどころです。本当に少しで、よくよく見ないとわからないような匂わせなんですけどね。これだけの大作に、あえてそこ入れるんだーと感心したものです。

この五郎丸くんを追いかける足守小平太役が月形龍之介さんなのですけれど、大変男気を感じる貫禄ある姿なのに五郎丸くんを追いかける姿が頼もしいのです。しかしその後、五郎丸くんと仲違いしてしまい怒ったのか、武田信玄側に寝返ってしまうのですよ。そして武田信玄に上杉側の内情をバラすのですけど、信玄は聞くだけ聞いて小平太を捨てるのですね。その時の小平太の顔と仕草がめちゃくちゃイケメンで印象的でしたね。月形さん、こういう役をノリノリでやってくれそうな性質があると見受けられるので見ていて楽しかったです。月形龍之介さん劇場はといった感じで注目の見どころになっています。

長谷川一夫さんはこの時はまだ若いので天真爛漫でみんなに愛されそうなキャラをニコニコと演じていたのがよかったです。そんな役なので最後がかわいそうでした。そしてこの映画での上杉謙信と組頭の二役を演じたの市川猿之助さんと、武田信玄の大河内傳次郎さんの貫禄と存在感の強烈さはすごかったです。大河内さんなんて50分も出てこなかったのに、出てきた瞬間全てを持っていってしまう。本当にいるだけで他を圧倒するオーラが強く、このお二人がいてこそ、この映画の威力が高まったと思います。このお二人を中心に脇を固める俳優さんたちも名優ばかりで、この時はまだまだ若く、この時代の作品は本当に輝いていたと思います。最初から最後まで素晴らしい、映画人たちの技術力を存分に感じる映画でした。

上杉謙信/組頭・貝賀孫九郎(二役) 市川猿之助(二代目)さん

武田信玄 大河内傳次郎さん

貝賀五郎丸 沢村昌之助さん

足守小平太 月形龍之介さん

百蔵 長谷川一夫さん

お篠 山田五十鈴さん

千代野 入江たか子さん

穴山伊豆守 黒川弥太郎さん

半兵衛 清川荘司さん

辛崎左馬之助 進藤英太郎さん

監督 衣笠貞之助さん

撮影 三浦光雄さん

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松元美智子 1996年少女漫画雑誌「ちゃお」デビュー/漫画家/イラストレーター/3DCGゲームアニメーター/書籍執筆/投資家/Python/UE5/最新刊「少女マンガの作り方」/Web「松元美智子クリエイティブブログ♡公式」で過去の漫画や制作に役立つ情報毎日投稿中/法政大学経済学部経済学科通信教育部生/メンタル心理カウンセラー

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