【時代劇の所作】溝口健二監督『近松物語』に学ぶ、お家様と手代の関係性を表す綺麗な「女性のかかえ方」
時代劇に見る女性をかかえて歩く方法⑤
5つ目は長谷川一夫さん主演、溝口健二監督1954年公開『近松物語』より、手代・茂兵衛役の長谷川さんが、お家様のおさん(香川京子さん)をかかえて歩くところです。このシーンは、家を出たおさんと茂兵衛が川原を歩いているときに、水の中を進もうとするおさんを茂兵衛が止めて、ヒョイとかかえて歩いて対岸へ渡る、というシーンです。川といっても水たまりが大きくなったような浅い川原です。
この時のかかえ方が非常に特徴的でした。茂兵衛がおさんの横で少ししゃがみ、右手は肩の方の位置に行きます。おさんが右手を茂兵衛の右肩に置き、茂兵衛がその手を上から握る。茂兵衛の左手はおさんの左側の太ももあたりを取り、しゃがんだ姿勢から立ち上がります。そうしますと(※)イラストのポーズになります。このポーズで茂兵衛が歩き、途中でおさんは茂兵衛の左腕に自分の手を置きます。川原を渡り、おさんを下ろして終わります。

どうしてこのような歩き方になったのか、憶測ですが、おさんは商家の主人のお家様(奥様)で、茂兵衛はそのお店で働く従業員です。役職としての「大経師」は、蒔絵や仏画の表装を手がける職人の長であり、暦(カレンダー)の発行などを朝廷から許可されている最高位の職人・業者です。手代は中間管理職で、丁稚の後に就く役職。お家様と従業員の関係なので、お家様にみっともない姿はさせられません。とはいえ、これを考えた方はすごいと思います。お家様をむやみやたらに触っていないし、お家様を見ない配慮もされており、さらに姿形は綺麗。溝口健二監督作品の時代劇にも合っています。これを見たとき、綺麗だなと思いました。
『近松物語』について、映画は川口松太郎さんの戯曲『おさん茂兵衛』を題材に、西鶴の『好色五人女』の「おさん茂兵衛」の二つを合体させたものだそうです。お家様と手代の道ならぬ愛の物語という単純な話ですが、役者さんが非常に達者な方々ばかりなので、許されない二人に対して葛藤しながらも出る人情や情けの表現がジーンときます。
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