戦時中国策として作られた国民啓発時代劇映画1944年「かくて神風は吹く」

戦時中国策として作られた国民啓発時代劇映画1944年「かくて神風は吹く」

映画のスタッフ欄に企画:情報局、後援:陸軍省・海軍省が並ぶ異様さ。
当時の日本の戦況を元寇になぞらえ、
日本侵略をする元を神風が敗退させたという逸話を題材に、
原作菊池寛大映社長、撮影宮川一夫さん松井鴻さん、
キャストは阪東妻三郎さん、嵐寛寿郎さん、市川右太衛門さん、片岡千恵蔵さん、
月形龍之介さん、原健策さんといった大映所属のオールスターが総出し、
さらに特撮シーンは円谷英二監督が担当。

娯楽映画として作られた作品ではないので仕方がないですけど、
映画に原作者や撮影者、役者さん達の芸が一切入らない映画って
こんなにつまらなくなるのかと感心しました。

またこのDVDには冊子がついており、当時の軍人達のインタビューが掲載されていますが、
「製作中に倒れることがあれば天皇陛下万歳を叫んで倒れていただきたい。」
「勝敗は1分でも歯を喰いしばって耐えた方が勝利を獲得する。」
ということが延々と語られる恐怖本でした。
「国策映画とは」という資料としての価値はあると思います。

1944年公開映画「かくて神風は吹く」について

この映画は1944年の11月に公開された作品ですが
当時の出来事は歴史でご承知のとおり、第二次世界大戦中で、
サイパン・グアム島などの玉砕を経て、本土空襲や
神風特攻隊による攻撃が開始され、物資も乏しく、
戦局悪化の兆しが顕著となってきた頃です。
この状況の中、国民が一丸となれば奇跡は起こるという
メッセージを国民に伝えるため、また国民啓発映画として
情報局が企画した国策映画が「かくて神風は吹く」でした。

物資が乏しい状況の中、実物大の元艦船をいくつも作り、
主要キャストは当時の大映所属のスターを何人も起用し
エキストラの人数も非常に多く、
絵巻物に出てくるような華美で豪華な衣装をあつらえるという
お金のかけられた映画です。

しかしこの作品は
娯楽映画ではなく国策として作られた映画のため
役者さん達の経歴に(Wikipediaなど)作品タイトルが入っていない場合もあり、
今では表沙汰にならない映画であると思われます。

その中で、
「DeAGOSTINI」の「大映特撮映画DVDコレクション」シリーズの中に
「かくて神風は吹く」が加わっていたことを
最近知りまして、国策映画とはどういう物なのかを見るために
DVD付き冊子を購入するに至りました。

視聴する前は娯楽時代劇映画を期待し、
さらに大変な才能が集結する作品なので期待も高かったのですが、
その内容の異様さにただただ驚くばかりの作品でした。

国策映画「かくて神風は吹く」の異様さ

この映画の異様さについては以下になります。

・娯楽映画ではない。楽しむべき映画ではない。

・役者について
メインキャストは阪東妻三郎さん、嵐寛寿郎さん、市川右太衛門さん、片岡千恵蔵さん、
月形龍之介さん、原健策さんといった当時大映所属のオールスター。
しかし娯楽映画にダダ漏れする役者さん達の輝く魅力や
多芸は一切入っていない。みんなオーラを消している印象。

・軍人による指導が垣間見られるシーン

①原作菊池寛大映社長にもかかわらず薄っぺらい内容。
おそらく菊池先生の名前を使っただけかもしれません。
もしかするとプロット的なものだけは伝えた可能性はありますが、
内容は菊池先生にしては疑問を抱くもので、
各エピソードやキャラの心境などの深掘りは一切排除し、
出来事のみが順に並びます。(プロット通りと言えばその通りです。)
また元が攻めてきたことを異様なまでに敵視し、
竹槍片手に「必ず勝つ」「奇跡は起こる」と言うシーンが連発し
軍人思想が濃いと感じる部分です。

②映像の稚拙さ。

撮影は用心棒や無法松の一生など名作を多く手がける宮川一夫さんと、
黄金期の東映時代劇を多数手がけた松井鴻さん。
このお二人が撮影担当としてクレジットに並ぶにもかかわらず、
構図が素人で、編集も雑。本当にお二人が撮影をしたのか疑問を抱くレベルでした。
こちらも名前貸し、またはわざと手抜きをした印象です。

③エキストラたちの動きが軍人。
和装しながらの走り方や止まり方が軍人丸出し。
軍人がエキストラをしていたか、またはそのようにするよう指導された。

④声が裏返る。
戦の前に並んだ皆の前で大将が決起づけに大声で演説をするシーンがあります。
時代劇スター役者さん達が演ずる際、どんなに大声を出しても
声が裏返ることなどないのですけど
この作品に至っては声が裏返っていました。
大声を張り上げての演説も時代劇ではあまり見られないので、
一生懸命さを伝えるために指導されたか、
またはわざと軍人のモノマネをしたかと思われます。

⑤神風特攻隊の演出。
神風特攻隊は戦闘機で敵に突っ込む行為がありますが、
この作品では元艦船で敵船に突っ込んでいきました。

⑥女性らが武器を作る
女性らが集団で弓矢を作っているシーンがあります。
さらにこの国難を乗り切るには皆が一丸となり…的な演説が入るのは
戦時中の国内の状況を彷彿とさせるシーンです。

この他にも数え上げるとキリがないですが
こうした軍国主義的思想の入った演出が
「かくて神風は吹く」の映画の中に多々あります。

冊子に掲載される軍人らのインタビュー

冒頭にも書きましたが、
冊子には軍人らのインタビューが掲載されており、
「製作中に倒れることがあれば天皇陛下万歳を叫んで倒れていただきたい。」
「勝敗は1分でも歯を喰いしばって耐えた方が勝利を獲得する。」
ということが本当に延々と語られているのです。
これが一番怖かったです。

他にも、
「最後まで歯を喰いしばって戦うこと、頑張ることがいかに重要な問題であるか。」
「負けたと1分でも先に言ったほうが敗けである。」
など。
またこれらに加えて当時の戦局や戦術などについて
もっともらしい言葉を並べ立てて語っているのですがどう見ても幼稚な発言。
当時のことを知る芸能人からは軍人の呆れ返る言動を耳にすることもこれまでに
ありましたが、このインタビューを読んで、
竹槍で戦っていた軍人らの言うことは本当だったとわかり驚きました。

さらにこれらインタビューは中佐、少佐、課長など役職付きが語っているので
目ん玉向いて呆れ返るに至ります。

色々とすごい作品でした。

1944年公開映画「かくて神風は吹く」視聴方法

現在DVDのみの視聴が可能です。

正式には「DeAGOSTINI」の「大映特撮映画DVDコレクション」シリーズ38「かくて神風は吹く」です。
中身は、冊子とDVDがついていますが、
現在ではこの両方を手に入れるのは困難かと思われます。
DVDのみでしたら中古品で安く販売されているので、
映画のみの視聴は比較的容易です。

娯楽映画ではなく、国策映画とはどのようなものか、
資料を見る気持ちで視聴すると良いかと思います。

時代劇でのオールスターが出演する映画は下記でも紹介していますが通常は面白いです。













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松元美智子 1996年少女漫画雑誌「ちゃお」デビュー/漫画家/イラストレーター/3DCGゲームアニメーター/書籍執筆/投資家/Python/UE5/最新刊「少女マンガの作り方」/Web「松元美智子クリエイティブブログ♡公式」で過去の漫画や制作に役立つ情報毎日投稿中/法政大学経済学部経済学科通信教育部生/メンタル心理カウンセラー

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