1943年映画『生きてゐる孫六』|木下恵介監督の忘れられない診察シーン
初期の頃の木下恵介監督作品の映画には、
「普通の人を装った変わった男」が登場します。
普通の人たちなので物語にスムーズに入り込み、
楽しんで視聴しているところに、
突然ギョッと目を見張るシーンが出てきて、
また普通に戻っていくので、
「今の何? 今の何?」と心がざわついてしまいます。
「生きてゐる孫六」では、
戦時中に診察をする軍医の男と、診察される男のシーンがあります。
突然の診察だったため診察道具がなかったのですが、
漫画の1コマ目のように診察していることは伝わります。
普通はこれで終わっても何の問題もありません。
にもかかわらず「生きてゐる孫六」では、
次の場面で軍医が診察している裸の男の胸に耳をあてます。
この描写を見た時、私は大変驚き、
いろいろな思考が頭を巡りました。
診察シーンでこれをあえて、あえて選んで撮るところに、
木下恵介監督の強い癖やこだわりを感じずにはいられません。
別にこの二人がそっちの関係という設定ではありません。
このシーンのインパクトが強すぎて、
主演の上原謙さんがかすんでしまうほどの映画でした。
木下恵介監督は、一度視聴しただけでも絶対に印象に残る変なシーンを
入れてくるので、記憶に残って仕方がありません。
「生きてゐる孫六」について
戦国時代、武田信玄と徳川家康が戦った三方ヶ原の土地を所有する名家は、
男は早死にすると先祖の時代から言われており、
若い当主の男はそれに悩まされ、自分も胸を患って早死にすると思っています。
戦時中、食糧増産のために三方ヶ原の土地の開墾を迫られますが、
この土地に鍬を入れると祟りがあるという言い伝えがあり、
土地の所有者であり一族を仕切る母親が断ります。
そのやり取りの中で、少々厨二病っぽい当主の男や、
軍医、三方ヶ原で隊を訓練する上原謙さんらが出会っていきます。
木下恵介監督特有の美男子や好青年たちの健康的なやり取りで
物語は淡々と進んでいくのですが、
突然、先ほど書いた当主の男の診察シーンが出てきます。
ここのインパクトは山場よりも強いという、すごいシーンです。
当主の男は「一族の男は早死にする」ということに悩んでいますが、
診察の結果、健康であることが分かり、
心の病ではないかという話になります。
少々厨二病っぽい当主で、機嫌が悪くなると妹に当たったり、
蔵に閉じこもっては家族を悩ませます。
最終的には軍医や上原謙さんの説得で当主の男は開眼し、
三方ヶ原の土地も食糧増産のために開墾を許し、
一件落着となります。
お話自体は本当に普通なのですが、
物語もキャラクターも普通である中に、
ちょっとおかしなことをする人物が出てくるので、
「あれはいったい何だったんだろう」と、
不思議なものを見たような、
ちょっとしたホラー体験をしたような感覚になります。
「生きてゐる孫六」の視聴方法
松竹シネマ+加入で見れます。
またはレンタル、DVD購入で視聴もできます。
◾️「生きてゐる孫六」松竹シネマ+
https://cinemaplus.shochiku.co.jp/titles/detail/53/